INTERVIEW 『劇場版 弱虫ペダル』監督 長沼範裕

――鍋島総監督をはじめとするTVシリーズのスタッフ陣に今回新たに加わったわけですが、作品を作るうえでどんなお話をされましたか?
鍋島さんがとても心の広い方で、「任せる」と仰って本当に全て任せて下さったんです。ですので、TVシリーズから受け継ぐ決め事というのは、実はあまり気にせずやらせていただきました。
――長沼監督はもともと原作の大ファンだそうですが、どんなところに魅力を感じられましたか?
アツいスポ根と、青春群像劇です。読者が求めているものをちゃんと描いてくださるので、一気に読んでしまうんですよね。今まで監督として短編などは手がけたことはあるのですが、こうした長編の監督は初めてで、劇場版のお話をいただいて光栄でしたし、運命かと思いました。しかも、渡辺先生の書きおろしでオリジナルをやれるという、ファンとしてはこれ以上ない幸せだと思っています。
――渡辺先生とはどんなやり取りをされましたか?
ご挨拶をしたときに、インターハイとは違って、ツール・ド・フランスのような広大な風景を走っている雰囲気でやりたいと仰って、ストーリーを書いてくださいました。とにかく「弱虫ペダルの面白さ、熱さをつたえてほしい」とおっしゃっていて、作品に対する物凄い熱意を感じました。先生は全てに関して真っ直ぐな方なので、「いい」「悪い」もハッキリしているんです。だからこそ渡辺先生に「いい!」と心から思っていただけるような作品にしようと気合いも入りました。
――劇場版はTVシリーズ後のお話になるんですよね。
渡辺先生も「原作の時系列は崩したくない」と仰っていて、原作28巻の峰ヶ山でのエピソードと新生総北が誕生する間に自然にはまるお話になっています。逆に言えば、劇場版を観終ったあとに続きをそのまま原作で読めるという、とても幸せな構成になっているなと思いました。
――劇場版の見どころを教えてください。
巻島と東堂の人としての素晴らしさという部分と、それを受け取る坂道や真波。そして各キャラクターにいろいろな想いがあって、それをそれぞれ伝えるために走ります。インターハイで活躍したチームが出場する「熊本 火の国やまなみレース」を走ることになるのですが、勝ち負けでレースを走っているわけではないんです。金城をはじめとする先輩たちが1年生・2年生に向けてバトンを渡すために走っている。よりチームの中にカメラを向けて描いているので、そこがインターハイとはアプローチが全く違います。原作にある追い出しレースともまた違った面白さがあるんじゃないかな。それに、ファンが見たかった原作で描かれていない部分が映像になっていますし、観終わったあとに想像が膨らむようなお話になっています。
――具体的にはどんなエピソードが観られますか?
例えば、荒北が待宮にベプシを奢るという約束がどうなったのか?インターハイでは観られなかった田所・新開・待宮のスプリンター対決など…まさか実現するとは……というシーンがたくさんあります。
――制作で苦労されたことはありましたか?
苦労はないです。楽しんで作りました。ただ、自分で絵コンテを描きながら感情が高ぶって爆発したりすることはありましたけれど(笑)。今までの副監督業務では冷静に判断しないといけないので一歩引くということをやっていたんですが、今回の劇場版では完全にのめり込んでやるという方法を取ったので、自分でもビックリするくらいの気性の激しさを見せました(笑)。
――演出面でのこだわりを教えてください。
ひとつは音楽です。劇場版90分の中で、音楽としてもちゃんと見せ場を作りつつ、TVシリーズとは違う劇場版ならではの作り方をしました。自分では3部作と言っているんですが、峰ヶ山のシーンの曲、話の核心となるところでの曲、最後の盛り上がりで流す曲というのを、ちゃんと3つ繋げて聴けるようにというお願いを(音楽の)沢田さんにお願いをしているんです。これはTVシリーズではできないことかなと。もちろん、皆さんが聴きたいと思っているだろうTVシリーズの曲もちゃんと入っています。
――自転車の音も新たに録音されたそうですね。
まず坂道、今泉、鳴子のニューバイクを劇場版に登場させるかどうかで悩んだのですが、せっかくのドリームレースですし登場させようということになりまして。TVシリーズに引き続き、この劇場版でも千葉競輪場のご協力をいただき、今泉なら電動コンポ搭載のフレーム、鳴子だったらカーボンディープホイールというようにそれぞれの自転車の音を実際に録ってきました。今回はバージョンアップということで、ムッキムキのプロの方に走っていただいたんです。
――乗る人によって音が変わるんですか?
変わりますね。上手な方ほど静かに走るので、東堂のように音がしなくなるんですよ。無駄が無くなって音がしないので、プロの方に「無駄に走ってくれ」というおかしなお願いをしました(笑)。総集編の『弱虫ペダル Re:ROAD(リロード)』は2.0chステレオでしたが、劇場版は5.1chなので音が全く違って聴こえると思います。とくにレースの迫力がとてつもなくパワーアップしているので、音も楽しみにしていただきたいですね。
――舞台となる熊本にも実際に訪れたそうですが、いかがでしたか?
本当に素晴らしいところでした。自分は北海道出身なんですが、北海道とは違った雄大さが九州にはあって、とくに阿蘇が魅力的でしたね。こんな雄大な阿蘇の大地で走って鍛えたら強くなるだろうな、これが熊本台一が名門と言われる由縁かなという想いがどんどん膨らみました。実際に行ってみて感動した風景をふんだんに取り入れていますし、自転車乗りの方たちに有名なスポットなども描いています。
――それは実際に熊本を訪れて自転車で走ってみたくなりますね!
ぜひ行ってみてください! 原作が自転車への興味を持たせる魅力的な作品なので、今回の劇場版を見ていただいてそう思っていただけたら嬉しいですね。ただ、自転車で行かないほうが良かったと思うかもしれませんが(笑)。レースで走るコースを実際に僕らも車で走ったのですが、ゴールが見えないくらい坂の傾斜がキツかったです。
――TVシリーズとは少しキャラクターデザインが変わっていますが、どんな意図があったのですか?
インターハイを経験してちょっと成長した感じを出したかったので少し変更しています。TVシリーズでこれだけ長い期間やっていると、作画スタッフさんたちの想いが入って画も変わってくると思うので、そういう部分も含めて今の皆さんが抱いている彼らのイメージを劇場版に落とし込んだという感じです。それに原作も巻数を重ねるうちに、渡辺先生の中でキャラクターが固まってきて顔が変わってきたキャラクターもいるので、そこも落とし込みたいなと思いました。とくに手嶋は変わったんじゃないでしょうか。
――因みに、監督のお気に入りのキャラクターは?
杉元(照文)です。みんな個性が強くて、それぞれすごい能力の持ち主ですけれど、杉元はそうじゃなくて普通の個性……逆にそれが個性なんですが(笑)。あれだけすごいヤツらが周りにいっぱいいるのにひねくれず、一生懸命に頑張って、みんなのサポートをして、真っ直ぐに自転車を楽しんでいるところが素敵だなと思います。劇場版では残念ながらポスターにもいませんが(笑)。
――劇場版オリジナルキャラクターの吉本進はどんなキャラクターですか?
方向性は違いますが、同じ熊本台一の田浦というキャラクターに負けないくらい濃いキャラクターです。怪我でインターハイには出場できなかったんですが、出場していたら結果が変わったんじゃないかと思えるような選手。硬派で男らしくて、同性の僕から見ても素直にカッコいいと思える人です。ポジションはクライマーなので、坂道や真波という同じクライマーたちにどう食い込んでくるかが見どころです。とくに東堂との絡みを見ていただければと思います。
――吉本役の宮野真守さんは初の熊本弁だったそうですね。
とてもハマっていました! 田浦も熊本弁で話しているんですが、彼の喋り方とは違いますね。熊本弁の素晴らしさとカッコよさが出てました。熊本弁に関しては、田浦役の田尻(浩章)さんが熊本出身なので方言指導でも心強かったですし、アドリブの相談もさせていただきました。実はTVシリーズよりも方言を強く出しているんです。TVシリーズでは一般の人が聴いても分かるレベルに落とし込んでいるんですが、劇場版は地元の熊本が舞台なので「ガンガン行っちゃおう!」と。僕たちが聴いて意味が分からないというのはさすがにNGですが、なんとなくニュアンスが分かればOKにしました。熊本弁の掛け合いも楽しみにしていただきたいです。
――アフレコ現場はどんな雰囲気でしたか?
自分は監督としてだけでなく、ファンとしての目線でも見ているんですが(笑)、両方の視線で見ても楽しかったですし、キャストの皆さんが楽しんで演じてくださっているので、それが画面に出ているなと感じました。すでにTVシリーズを2年間もやってきただけあって、皆さんキャラとして完成されていましたし、アドリブをお願いしたら皆さんからいろいろ提案をしてくださるんです。杉元役の宮田幸季さんなんて全部アドリブでもいいんじゃないかというぐらいのクオリティですごかったですね。あるシーンでは楽しすぎて、金城役の安元(洋貴)さんが「総北最後の走りがこれでいいのか!?」と言っていましたね(笑)。それがどういうことなのかは、劇場で確かめてみてください。
――最後にファンへメッセージをお願いします。
いろいろな布石を散りばめているので、複数回観ても楽しめるものになっていると思います。「この段階でこうなっていたんだ」とか「じゃあこれはこうだったんだ」という最初に観たときとは違う面白さを発見できるんじゃないかと。また、インターハイはどちらかというと勝つための悲壮感や、身を削ってのギリギリな部分がフィーチャーされていましたが、今回は「継承」がキーワード。それぞれが何を伝えるために走るのかに注目していただければ嬉しいですし、とにかく楽しんで観ていただけるのが一番です。これだけのメンバーが集結して走るドリームレースというお祭りをぜひ楽しんでください!
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